失恋したてブログ用

2019年8月23日にLINEノベルより刊行された『♯失恋したて』。
本作を執筆された中村航さんへのインタビュー後編をお届けします。

中村航さんインタビュー【前編】はこちら

物語は、経験と好奇心のバランス


――
「自分でしっくりきていないと書けない」と仰っていましたが、腑に落ちた後に書き直したりすることもあるのでしょうか?

もちろんあります。もともと手探りで書いていた部分とか、もうちょっとスッキリさせようと思っていた部分とか……。
自分自身で経験したことというのは小説を書く上ですごく糧になるんです。経験って一番の強みだと思うので。だから、経験したことを書いているというのももちろんあります。
それと同時に、知りたいことを書いているというか、理解したいことや自分の知らない世界、経験したいことを書くんですよ。(『トリーガル』で描いた)鳥人間コンテストのことだって、もともと何も知らなかったんです。書き終わるとあたかも最初から知っていたかのように見えますけど。


――
そこからのスタートだったんですね。

(『年下のセンセイ』で描いた)生け花もそうですけど、知りたいと思うからこそ調べたり、話しを聞いたり、取材をしたりしますからね。


――
その時に一番「知りたい」と思う“興味関心”の対象が作品のテーマになっているんですか?

両方です。自分の“知識や経験”と“好奇心”の組み合わせですね。

例えば、ボクシングがテーマの作品を書くことになったとき、『そもそもボクサーは、どうしてボクシングをするんだろう』という、“すごく知りたいこと”があったんですよ。書き始めや書いている途中にはまだ解決しなかったりするんですけど、どこかで分かる瞬間があって。そうすると最後まで書けるというか、到達すべき場所が分かるんです。

今まで、その“知りたいこと”の答えが最後まで分からなかったことは、ないと思います。
感覚的な話なんですけど、書き始める前に「きっと書いていけば分かるはずだ」という予感もちゃんとある。ちょっとかっこいい言い方をすると「物語の力を借りて、旅をしてみれば分かるさ」という感じですね。


――
中村さんが物語を書く行為の動機は、「知りたい」という気持ちにあるのでしょうか。

そうだと思います。『#失恋したて』も、主人公がすごく落ち込んだときに、「どうやったら回復できるだろう」とか「本当にちゃんと回復できるのか」とか、そういうのってはじめから分かっているわけではないんですよ。でも旅をしていく中で色々な話を聞いて、「ここまではいけるな」ってだんだん分かってくる。


――
そういった想像に、実感や経験が伴ってリアルに落とされていくということなのでしょうね。

そうなるように頑張っている、という感じですかね。何しろ人間の感情や行動をリアルに描きたいというのがあるので、プロットの都合だけで進めるとリアルさが出ないのではないかと思っていて。それに、人間が考えていることって、そんなにしっかりしてないとも思います。理路整然と語られることって、あまり信用できない。結局僕らには何も分かっていないんですよ。あるのは仮設だけ(笑)。

「恥ずかしいものを書けた方が、小説家として伸びしろがある」


――
最初に小説を書きはじめたのも、好奇心がきっかけですか?

まさにそうかもしれない。もともとずっとバンドをやっていて、そのバンドを辞めたときに「明日から小説を書こう」と思い立ったんです。「もしかしたら書けるかもしれない」という好奇心だったと思います。


――
物語はすぐに浮かんできましたか?

浮かばないですよ。書き始めたというよりも“書くことにした”というだけですね。

「今から何でもいいから書いて、もしいついつまでにちゃんと書けたら小説家を目指そう」と思っていました。


――
きちんと期限を決めていたんですね。どのくらいの時間をかけたのでしょうか。

思い立ったときに、ある文学賞の締め切りがちょうど2か月後くらいにあったので……特に応募したかったわけではないんですけど、その締め切り日を期限にしました。


――
2カ月間で書き上げたんですか?

2、3カ月くらいだったかな。100枚くらいの募集要項だったと思うんですけど、締め切りまでに書けたから初心通り小説家を目指すことにした……というよりですね、書き終えたときは「もしかしたら受賞しちゃうかもしれない」と思っていたんです(笑)。だけど、そんなわけはなかった。
その次に時間をかけて書いたのが、デビュー作になった『リレキショ』です。


――最初に
書き終わった後に自分の書き方を見直して、二作目を書いたということですか?

最初の小説は、どんな書き方をしたのかもよく分からないです。何も考えずに長い日記を書いているような感覚でした。


――
自伝ですか?

違うんですけど、似たところはあるかも(笑)。『大一』というタイトルでした。大学1年生の『大一』。大学1年のときの話を書こうと思ったので。


――
読んでみたいです。

完全封印ですね。7、8年くらい前に一度だけ読み直したんですけど、なかなか熱いというか、ほとばしっているというか。内容はひどいですよ。


――
何がひどかったんですか?

なんだろう。主人公は最後、メキシコに旅立つんですよね(笑)。読んでいるといたたまれなくなるというか、とても恥ずかしくなる。
でもね、恥ずかしい方が正常なんですよ。踏み込んでいるから、恥ずかしいわけですから。


――
自分自身に踏み込むということでしょうか。

必死に書いたラブレターを、後で読み返すのと同じですね。最初はうまく書くよりも、とにかく恥ずかしいものを書いた方が、伸びしろがあるんじゃないか、と僕は思います。全く恥ずかしさを見せない人もいますけど……。


――
恥ずかしがらない人の作品は、中村さんにはどう映るのでしょうか?

ああ、でも考えてみれば僕も同じかもしれない。最初に書き上げたときは嬉しくて友だちに読ませたりしていたので。後で読み直して恥ずかしくなるだけで、書いたときはそんな感じじゃない。


――
高揚感もあるんですね。何かを表現することは難しいことだと思います。私は恥ずかしくて、なかなかさらけ出せなかったので。

自分で撮った写真を人に見せるのって、なにも恥ずかしくないじゃないですか。だけど言語は自分自身の中にあるものだから、それをダイレクトに人に読ませる行為って、ある意味裸を見られるのと同じだと思うんですよ。それを恥ずかしいと思う感覚自体は正常で、その“恥ずかしさ”が面白さに繋がると思います。だから案外「書けない」と思い込んでいる人の方が、面白いものを書けたりするんですよ。


――
中村さんが恥ずかしさを感じるというのは、すごく新鮮でした。

昔から何でも恥ずかしかったですよ。バンドで歌詞を書いたり歌ったりしていたときも超恥ずかしかったです。恥の多い人生ですよ(笑)。

だけどこれが不思議なもので、今はもう色々なことが全然恥ずかしくなくなっちゃいましたね。慣れたのかな……。


スランプ打開策は“先へ進むこと”


――
スランプに陥ることはあるんですか?

大体スランプですよ。ときどき波に乗ってくる時期があるので、そこをうまく使っている感じです。もともとそんなに筆が早い方じゃないので、「今日はこういう方法でやったらうまくいったから、明日も試してみよう」と色々な方法で書いています。それでうまくいくとは限らないんですけどね。


――
書くシチュエーションが大きく影響するのでしょうか。
 

それもあります。「この場所で書いたらうまくいったから、またやってみよう」とか。
年間4冊とか5冊とか、そういうペースでいつか書いてみたいけど、書けないですよ。


――
それくらい、一冊に向き合って書かれているということでしょうね。

もちろんそれは、一冊一冊ちゃんと向き合いますけど、もう少し書けたらいいなとは思っています。
明日から急に書けるようにならないかなぁとか毎日考えているし、色々試します。


――
シチュエーションを変えたり、執筆方法を変えたり、色々と試しながら打破するということですね。
 

そうですね。「プロットをちゃんと作ったら、もっと楽に書けるかな」とか「お酒を飲みながら書いたらもうちょっと進むかな」とか「散歩してから書こう」とか。
ひとつ分かっていることは、僕の場合は考え過ぎずに先に進んでしまった方がいいということですね。ここがうまく書けないからといって止まってしまうと、いつまでたっても進まない。ここは後から直すと決めて「とにかく書いてしまえ」と書き進める。そうすることで「ここはこうすれば良かったんだ」と後で分かってくるんですよ。
だから、僕の打開策は“先を書くこと”ですね。とはいえ、それっぽっちのことがなかなか実行できないんですけど……。


――
今回の作品で悩んだ部分はありましたか?

あぁ、実はプロットの段階では登場人物がもう一人いたんですよ。けど、悩んで結局出すのをやめました。しっくりこなかったんです。 


――
うまく動かなかったということでしょうか。

最初は4人で旅をするというストーリーで考えていたんですけど、書いてみてどうしてもしっくりこない……。最初の考えに囚われるのをやめたら、動き始めました。

こだわらないことって実は大事なのかもしれないですね。自分のアイデアに固執すること自体は当然のことなんですけど、なにかうまくいかないときって、そのアイデアにどこかしら欠陥があるということなんですよ。だから思い切って捨ててみたり、方向転換をすることが結果的に改善のきっかけになることもあると思います。


紙媒体と電子書籍が掛け合う“美しい体験”


――
これからどんなことにチャレンジしていきたいですか?

そうですね……。次に何を書くか、ということはいつも考えています。
あとは、自分が書いたものをちゃんと誰かに届けるということを頑張らないとな、と思っています。

――
次の作品の構想はあるんですか?

2つ3つは、いつも持っていますよ。 

あ、大きなものとしては、小説を初めて書こうと思ったときに「これは書かなきゃならないな」と思っていたテーマがあって……。


――
『大一』を書いていた時期でしょうか。

そうです。それからその先もずっと一緒で「いつか書かなきゃ」と思いながらここまで来てしまったので。自分の体験をベースにした話で、「面白くない作品になったらどうしよう」という恐怖心があって、最初は書けなかったんですよ。さすがにそろそろいけるかなとか思って書き始めてはいるんですけど、完成はちょっと先になりそうです。


――
テーマに向き合う環境が整ったり、覚悟ができたり、心境が変わったということですか?

まぁ、そうですね。今なら面白く書ける、と思えるようになったんです。あと、恥ずかしくなくなったのかもしれない(笑)。


――
楽しみです。まずは『#失恋したて』を盛り上げていきたいですね!

ええ。普段本を読まない人とか、大勢の人の目に触れるといいなと思っています。
どんな反響があるか分からないですけど、新しい挑戦として“新刊が出るのと同時に、スマホでも読める”。これ、僕自身はちょっとワクワクしているところもあるんです。

もちろん、本を手に取ってもらいたいというのは、どうしても捨てられない思いではあるんです。けど今は、「ちょっとみんな、気軽にスマホで読んでみてよ」思えるようになりました。
スマホで読む感覚と紙で読む感覚では、感動の種類やリーダビリティーが違うのかもしれないですけど、今まで届かなかったところに自分のテキストが届くかもしれない……というより、届けられるよう努力しなきゃな、と思っています。
もともと僕は、若い子には「図書館で借りて読んでください」と言ってしまうタイプなので、無料でもなんでも読み方を工夫しながらどんどん読んでいただけたら嬉しいですね。


――「
紙媒体では届かなかったところにも届けたい」ということですね。

そうなるといいな、と思っています。アプリで読むことによって読者のみなさんがどんなことを思うのか、サービスがどうなっていくのかという期待はあります。楽しみですね。
最終的にはやっぱり、書店に足を運んで、本を手に取っていただける方が一人でも増えたら嬉しいです。


――
ありがとうございます。まずはアプリで読んでもらって、我慢できなくなって書店に駆け込む、という展開があったらいいなと思います

それも美しいですね。アプリで読むのと紙で読むのとでは、きっとまた別の体験ですからね。


君を成長させるのは、好奇心と情熱だけ


――
最後に投稿者の方へアドバイスをいただいてもよろしいでしょうか。

小説を書くということは、何かを考えるということなんですよね。先ほども言った通り、たとえ意識していなくても“自分の知りたいことや理解したいことを書く”とういう側面は絶対にあるんです。だから書くことは“理解すること”だし“成長すること”でもある。
それも含めて、“書く自分”というのは“書かない自分”とは違うんですね。書いていれば物の見え方が全然変わってくるはずです。例えば、降っている雨や走っていく電車を見て「こういうシチュエーションをどこかに当てはめられないだろうか。今のこの気持ちを何かに活かせないだろうか」とか、単純に好奇心が広がるんですよね。


――
見えるもの、感じるものが物語を描くための材料になるということですか?

そうです。常に何かを探しているし、こうやって人と話をしていても、“書いている自分”が相手に興味を持つんです。

だから、こういう小説を書くプラットホームがあって、挑戦してみようかなと思っている人や、すでに書き始めてる人は、書くことを意識していなかった頃の自分とは違う感覚を持ち始めていると思いますよ。


――
世界が開けていくんですね。

好奇心と情熱がこの世を……君を動かしているんですよ。君を成長させるのは、好奇心と情熱だけです。


――
かっこいいですね。

実践として、本当にそう思うんですよね。小さい頃は家に帰ったら、お母さんに色々なことを報告するじゃないですか。あとは日記をつけたり。そういうのも本当は同じだと思うんです。ただ創作になると、またもう一段違う。


――
そうですね。表現の仕方とか、ちょっと変わってきますよね。

読み手としての他者を意識するからこそ、より面白くするために自分の感受性や行動が変わってくるんです。書くことによって理解できたり、思想みたいなものができたり、救われたりすることがある。
自分の中の一番深い部分まで辿りつける方法は、書くことなんです。頭の中で考えているだけだと、2~3段階ぐらいまでしかいけないんですよ。すべてを覚えていられないので。『○○だからこう、○○だったからこう』、そういった考えを書いて可視化することで、またさらに先の段階へ進めるのではないでしょうか。


――
なるほど。書くことはさらに先へ進むことに繋がるんですね。

だから、自分の書いたものを後で読み返してみると「自分はこんなことまで書けたんだ」って驚くことがあります。僕には、自分の考えなり何なりを、つらつらと論理立てて話すことはできない。だから書くという行為によって、少しずつ積み重ねているんだと思います。
こうしてスマホで手軽に書ける今、小説を書いたことがない人も挑戦してみることで、そういう満足感を得られると思うし、成長できるんじゃないかとも思います。


――
まず書いてみることが、新しい自分への第一歩ということでしょうか。

書く前は『恥ずかしい』とか『恐い』とか、『自分は書けないんじゃないか』とかみんな思っているものです。だけど、とにかく一行を書くことで、次の一行が生まれる。
せっかく気軽なプラットホームがあるんですから、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。


書籍情報

内容紹介
「彼女が失恋したばかりだって僕にはすぐわかったんだ──」
失恋したての就活生・なつきと、小学生ユーチューバー・遥希の、ちょっと不思議な夏休み。
女子大生のなつきは就活がうまくいかず、大学の先輩で社会人の恋人・亮平とも予定が合わずに会えない日々が続いていた。
亮平の長い出張に合わせた北海道旅行で、二ヶ月ぶりに会うことになったふたり。
しかし、亮平と待ち合わせした幸福駅でなつきを待っていのは、全然、幸福じゃない出来事だった──。

出版社からのコメント
どこからも、誰からも必要とされない…そんな痛みを味わったことありますか?
本作は、就職活動真っ只中の女子大生なつきが主人公。
3年付き合った恋人からも就職活動先の企業からことごとくフラれる……
そんなどん底のタイミングで起こった出来事から物語は展開していきます。
著者である中村航さんは2002年『リレキショ』で文藝賞を受賞してデビュー。
2年後の2004年には『ぐるぐるまわるすべり台』で野間文芸新人賞を受賞、また映画化もされた『100回泣くこと』が85万部のベストセラーとなり、人気作を多数輩出されています。 主な著書に『デビクロくんの恋と魔法』『トリガール! 』『BanG Dream! バンドリ』などがあります。
チクチク刺さるエピソード、また予想を裏切る物語展開をお楽しみください。

著者について
中村 航
2002年「リレキショ」で文藝賞を受賞しデビュー。
2004年『ぐるぐるまわるすべり台』で野間文芸新人賞を受賞。
『100回泣くこと』が85万部のベストセラーとなり映画化。主な著書に『デビクロくんの恋と魔法』『トリガール! 』『BanG Dream! バンドリ』ほか多数。

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