エクストラ・フォーリン・エールワイフ 2019-09-05 12.48.45

『エクストラ・フォーリン・エールワイフ ―異世界の奥さんは日本のビールを学びたい―』がライトノベルレーベル『LINE文庫エッジ』より2019年9月5日に刊行されました。
今回、刊行記念として作者の阿羅本景さんにインタビューを実施。ライトノベルでは異色のテーマとなるビールを選んだ背景や、ビールを作品に落とし込んだ過程などをお伺いしました。


普通の編集部では通らない題材「ビール」に挑戦!


――今作のコンセプトや、物語が決まった経緯を教えてください。

LINEノベルさんで小説を書かせてもらうということで、ちょっと毛色の違うものをやってみたいなと思っていたんです。私の趣味のひとつにビールがあったので、普通のライトノベルの編集部では絶対に通らない『ビールを題材にした大人向けの作品を作ろう』と決めました。
そこからいわゆる異世界転生物にしようと思い立ったのですが、仮に異世界に行って主人公がビールを飲むという設定にしてしまうと、架空のビールで読者の興味を惹くことができないなと思ったんです。
そこで『異世界の人がこちらの世界に来る』という逆の設定を思いつきました。ひとつ題材にしたのが『テルマエ・ロマエ』です。あれって古代ローマ人が日本にやって来て、風呂やトイレにびっくりするというお話じゃないですか。ビールもそういうパターンの描き方の方が面白いだろうなと。
主人公側の義文と千沙都に関しては『高杉さん家のおべんとう』みたいな、親のいない家庭&グルメものという感じで組み立てました。そのふたつを融合させて『エクストラ・フォーリン・エールワイフ』の基本的な骨組みができていきましたね。


――キャラクターを作り上げる際に意識されてることはありますか?

大前提として『みんなに愛されるキャラクターを作る』ということでしょうか。
道理が通っていても面白くないキャラクターより、道理が通っていなくても面白いキャラクターの方が、読者から圧倒的に好かれます。めちゃくちゃやっているようでも楽しい人というのは、やはり読者としても読みたいものだと思うんですよ。全員がロジックで動き、きれいにお話が終わる展開は、作者としてはすごく安心できるんですけど、読者からすると面白くないんですよね。
今回、ミサクミラが割りと自分勝手に動くキャラクターだったので、彼女は書いていて楽でした。逆にそういった部分の少ない千沙都を、かわいらしく切ないキャラクターに仕上げていく苦労が大きかったです。『義文とはいとこ同士』『保護者と被保護者の関係』『異世界人から母親にそっくりな人が来た』という設定ばかりがあったので、そこに対してどういった感情を抱くのか、という部分がなかなか見えづらくて大変でした。


1年間で飲んだビールは640種類!厳選したネタを詰め込んだ


――作中では、様々なビールが登場しますよね。

元々ビールが好きなこともあって、昨年から飲んだビールを記録したりシェアしたりすることができる『UNTAPPD』というをSNSを始めたんです。色々なビールのお祭りに参加しながらUNTAPPDに記録をつけていったら、この1年で飲んだビールが640種類くらいになりました。今回の作品は趣味から生まれた作品と言ってもいいかもしれませんね。

取材としてビアバーには2、3ヶ所、それからサントリーの工場も見学させていただいたので、その中から面白い話やマニアックな話を厳選して書いています。とは言え、ビール自体を描いている作品は他にもあるので、この作品は『ビール入門用』としては書いていません。ビールを飲んだ時の反応って人それぞれで、「あまりおいしくなかった」と言う人もいれば「最高だ」と言う人もいます。だから、味について語るよりも「これを飲んだらどういう反応をするだろう」「こんな面白いリアクションがあるだろうな」という“ビールを飲んだときの反応”を書きたかったんです。教養ではなく、ビールの面白さを感じながら「おいしいビールを飲みたい」と思ってもらえるように、心の中の異世界人と一緒に作品を作り上げていきました。


――実際の商品名も出てくるので、読んでいて嬉しくなりました。

極力手に入りやすい定番商品を取り入れるよう心がけていましたが、やはりおいしいものは限定だったり少数生産だったりするので、その辺りはなかなか難しかったですね。


――作中で時折話題になる異世界のビールは、どのように考えたのでしょうか?

ビール作りを教えていただける施設に知人と一緒に伺って、できるだけ近いレシピで実際に作ってみました。現代の設備を以ってしても、ホップ以前のビールをおいしく作るには手間がかかるということや、ホップを使わないとどんな味になるのか、など細かい部分の見通しが立ったので、「村のエール小屋みたいな場所で作っても、きっとおいしくならないだろう」と自信を持って書くことができました。
異世界のビールに関しては、実際に作ってみなければあまり描写できなかったと思います。作ってみたことでどれほどおいしくないものなのか説明ができる――その方がリアリティーが増して書いていても納得できますし、きっと読者の方からも「うんちくをひけらかしてるな」と思われない形で、異世界ビールの面白さを感じていただける内容になっていると思います。


――イラストを担当されたのは、同じくビール好きの葉賀ユイさんですね。

最初に葉賀さんと顔合わせをしたときは、最近飲んだビールの話を2時間くらいしていました。お互いビール好きということもあって、葉賀さんも「これは自分がやるべき仕事だと思いました。他の人に渡したくないです」と仰ってくださって。とても乗っていただけましたね。

 

TYPE-MOONの二次創作小説がきっかけで奈須きのこさんからスカウト


――書いていて楽しいシーンとそうでないシーンって、やはりあるのでしょうか?

ありますね。ミサクミラみたいな奔放で楽天的なキャラクターが多い時は楽しいのですが、シリアスなシーンや理詰めで話が進んでいくシーンは、ちょっとつらい時もあります。
バトルものやファンタジーものでは“倒すべき敵”という目的があり、その筋から外れると読者の方にガッカリされてしまいますが、逆に日常ものでは合目的へと最適化された展開になると、理屈ばかりでドラマの面白さが消えてしまって、読者の方にガッカリされてしまうんです。そこに“妹のかたきを討つ”といったような理屈があればいいのですが、そもそもの理屈がない日常ものでは難しい……。今回の作品は目的自体はあっても切迫した雰囲気ではないので、そこに作者の合理性を優先せず、いかに楽しく書けるか?という部分が難しかったですね。


――阿羅本さんはこれまで小説とはどのように関わってこられましたか?

私が中学生の頃にジュブナイルがライトノベルと呼ばれるようになり、TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)や『ロードス島戦記』に刺激を受けました。それから色々書きつつ、高校のときには文芸部、大学ではSF研究会と、書いたり読んだりする“文系オタクルート”を歩んでいました。
就職をした際にはそっちの道に進む気は全然なかったので、あくまで学生時代のホビーのつもりだったのですが、TYPE-MOONの『月姫』に巡り会って人生が変わりましたね。二次創作というものに取り組むようになったときに、それが奈須きのこさんの目に止まり、TYPE-MOONの所属ライターにスカウトされたんです。そこで最初に書かせてもらったのが『Fate/hollow ataraxia』。奇妙なルートからゲームシナリオを書くようになりました。
5、6年美少女ゲームのライターをやっていて一番売れたものがその『Fate/hollow ataraxia』なのですが、表紙に自分の名前が載っていないので、知らない人は知らないんですよ。それはやはりつらいなと。ちょうどその頃、多くのゲームシナリオ出身のライターさんたちがどんどんラノベに乗り出していた時期だったので、自分もやってみようと思ったことがきっかけで、ラノベを書き始めました。ラノベはヒロインがいて成り立つ作品。女の子を書くことは得意だし、書きたい気持ちも強かったので、美少女ゲーム作家からラノベ作家になりやすかったのもありました。相性が良かったんですね。


自分が楽しいと思うものを投稿してほしい


――これからどんなことにチャレンジしていきたいですか?

やはり趣味性の強いものでしょうか。今回、ビールを題材にして書いていてとても楽しかったので、ほかにも自分が興味を持ったものがあれば取材して、新しい切り口で書いていけたらいいなと思います。


――
LINEノベルは投稿のプラットフォームなのですが、これから作家になりたいという人に向けてアドバイスをいただけますでしょうか。

私自身は小説投稿はあまりしたことがないので、そこに関してうまくアドバイスできるかどうか分かりませんが、ウケるものより、自分が楽しいと思うものを書くことが一番だと思います。書籍化しやすそうな題材で戦略を練りながら書くことも楽しいのですが、やはり自分が納得して楽しいと思えるものは、作品から楽しさが溢れているので魅力があります。新しいサイトなので可能性はたくさんあると思いますし、むしろ「自分がLINEノベルのトレンドを作ってやるぜ」くらいの意気込みで臨んでみてください。作家としては書籍化がゴールではありませんので、そこばかりにとらわれてしまうと大変ですから。

 

――最後に、作品を期待されているみなさまへ一言お願いいたします。 

ライトノベルは久しぶりになってしまいましたが、ビール×ラノベという、恐らくラノベ界初の組み合わせを楽しんでください。そしてイラストが葉賀さんなので、みなさんかなり期待されているかと思います。その期待を裏切らないように頑張りました。読み終えたら、ぜひおいしいビールを探してみてください。


書籍情報

内容紹介
長野義文は叔母の美沙に幼少の頃から恋心を抱いていた。彼女が二年前に病没するまでは――。
その後、義文は美沙の忘れ形見である千沙都の未成年後見人となり、同居生活を送っていた。
そんな折、突然彼らの家に異世界から勇者の妻が転移してくる。
ミサクミラと名乗る彼女は、美沙の生き写しの姿形をしていた。
ミサクミラはエール妻(ビール職人)を生業としており、この世界にやってきたのは、豊穣の女神様から優れたエール造りの技を学んで持ち帰る使命を受けたのだ、と宣言する――。
これはビールが繋ぐ、縁と絆の物語。

著者について
著者:阿羅本景
元TYPE-MOON所属のライター・小説家。
「碓氷と彼女とロクサンの。」や「ろんぐらいだぁす! 」の外伝小説、3000万Viewを超した「たちあがれ! オークさん」の原作など。大のビール好き。

イラスト:葉賀ユイ
漫画家・イラストレーター。
アニメ化した「ロッテのおもちゃ!」や「バカとテストと召喚獣」の挿絵など。
最近「ばっかつ! 」というビール漫画を手がける。大のビール好き。

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