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LINEノベル presents「あたらしい出版のカタチ」の活動の一環として、2019年4月24日に六本木の文喫にて、イベントを開催しました。

この日のテーマは「ミリオンセラーの作り方」。ノベルLINE統括編集長の三木一馬さん、新潮文庫nex編集長の高橋裕介さん、そしてLINEノベル事業プロデューサーの森啓が登壇しました。

本記事はそちらのイベントの事後レポートとなっています。

司会:本日は、よろしくお願いします 。まず、自己紹介をしていければと思います。

森啓(以下、森):事業プロデューサーの森です。先週、LINEノベルのプロジェクトを発表させていただきました。本日はフランクにいければと思います。よろしくお願いします 。

三木一馬(以下、三木):ストレートエッジの三木です、よろしくお願いします 。僕は、KADOKAWAという出版社で作品を作っていました。元々は電撃文庫で編集長をやっていましたが、思うところがあってストレートエッジを立ち上げました。

「もう一度、編集長として仕事をしてみないか?」と森さんから声かけがあり、統括編集長としてLINEノベルに関わります。今日は意気込みを語りたいと思います。

高橋裕介(以下、高橋):新潮文庫nex編集長の高橋です。僕は、2012年から文庫で文芸に関わっています。2014年に新潮文庫nexというレーベルを立ち上げました。

「文庫の市場がどんどん縮小してきている。」ということを感じている時に、LINEノベルの話を聞いて興味を持ちました。これから書き手や読み手など、色んな可能性が出てきて欲しいと思っています。よろしくお願いします。


「作品によって編集者の役割は異なる。」三木一馬さんの過去事例

まず、編集を担当した作品の発行累計が6000万部を突破している三木さんが「これまでどのようにミリオンセラーを生み出してきたか?」を語るパートからイベントは開始。

ミリオンセラーになった『魔法科高校の劣等生』
俺の妹がこんなに可愛いわけがないの2作品を例としてあげながらご説明いただきました。
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三木:はい。では、まずこの二つのタイトル知ってる人!

会場: はい!(8割ほど手があがる)

三木:大丈夫そうですね。

この2作はライトノベルというジャンルの作品で、主に中高生向けです。ちなみに電撃文庫は、ターゲット的には男性が多めになっていますが、女性も買っていますね。

昔の小説というのは、高尚なものであったり真面目なものであったり大人が読むものでしたが、ライトノベルはグラフィカルで漫画と同じような感覚で読めるように作られてます。このライトノベルは今から15年くらい前からスポットが当たり始めたジャンルです。

僕は、幸運にもライトノベル市場が大きくなるタイミングで関わって、一緒に成長してきました。累計で
「魔法科高校の劣等生」が900万部、「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」が500万部ぐらいです。 ラノベの特徴は巻数をたくさん出すというところで、漫画と同じですね。


魔法科高校の劣等生〈1〉入学編(上) (電撃文庫)
佐島 勤
アスキーメディアワークス
2011-07-08


俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫)
伏見 つかさ
アスキーメディアワークス
2008-08-10



今回、なぜ『魔法科高校の劣等生』と『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の2種類の例を出したかというと、この2つ同じライトノベルなんですけど、作り方と編集としての作品への向き合い方がだいぶ違うからです。

野球で例えると
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』はどちらかというとピッチングコーチという立場として一緒にペナントレースを戦う感じで関わりました。一方、魔法科高校の劣等生』はスカウトという立ち位置で、高校野球を観に行って「スピードいいじゃないか。」と良い選手を見つけるという関わり方でした。そういう役割の違いがあります。

両方ヒット飛ばす、すごい編集者は誰でしょうね?(笑)
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会場:(笑)

三木:これらの作品をどのようにミリオンセラーにしたか?というところをご説明します。

キャラクターが物語をリードする。愛されキャラに大事な要素とは?

三木:まずは、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』からご説明できればと思います。基本的には編集としての役割を意識してこちらを作りました。

特に意識したのはキャラクターですね。
中高生の男の子に届けることを考えた時に、漫画やアニメに親しんだ層の人達に届けるわけです。そこでキャラクターを作る、つまりキャラクター小説にしていくことを決めました。

キャラクターが動くとストーリーが動くんですね。ストーリーをまず考えて描き始める漫画家さんはなかなかいないし、それを出来る人も数が少ない。皆さんも好きな漫画を思い出す時にストーリーというよりもキャラクターを思い出すんじゃないかな、と思うんです。例えばルフィがかっこいいとか。

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「キャラクター小説のポイントとは何か?」と考えたときに、関係性・ギャップ・特技・愛嬌の4つがポイントみたいなところがあって。

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』は、主人公とヒロインの関係性でいうとラブコメなんです。主人公の妹である高坂桐乃のキャラクターは、エリートの頭がよくてスポーツもできて頭も良くて、パッと見コギャルっぽくて近寄りがたいスーパー人間なんです。

けれども、唯一自分の中で欠点というか恥ずかしいと自分が思ってしまう趣味「妹モノのエロゲが好き」みたいなところがあって。それを京介と秘密を共有することがあって物語が転がっていく。

また、「キャラクターの何が大切か?」というところなんですが、例えばイチローやダルビッシュかっこいいですが、それだけだと少し自分とは別の世界の人間みたいなんですね。すごい人間なんだけど「自分と近いもしくは自分の方が優れてるかも」みたいな要素があるとそのキャラクターは読んでる人と属性の分布が近いんですね。

具体的に言うとですね、世界で最も売れてる漫画ワンピースの中で、ルフィという少年が海賊王になる!と言ってすごい頑張ってるんですけれども、かなづちなんですね。ゴムゴムのみを食べてガトリングガンとかあって、すごいんですけれど泳げないんですよ。俺泳げるじゃないですか。(笑)

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会場:(笑)

三木:そこで距離が縮まるんですよ。ただ、街で不良に絡まれても怖くないんですよ。だって助けてくれる。そう言うキャラクターっていうのはすごく人気が出る。だって隣にいるようなキャラクターというのはずっと人気が出続けるわけです。

今は少年漫画の話をしましたがラブコメのキャラクターも同じですね。少しの憧れとちょっとクスッと笑える、というのがポイントとしてあったかなと。

当時の世相として、妹ブームというのがありまして。以前、シスタープリンセスという伝説の小説が流行ってました。なんでも言うこと聞いてくれたり自分のために尽くしてくれる妹が、現実世界にいないから求められてたんです。僕はパンクな感じなので、アンチテーゼを掲げるところがありまして(笑)。

一般的には、コギャルだったりお兄ちゃんを毛嫌いする存在、でもそう言う子が頼ってきたりする。例えばアキバ知らないから一緒にきてよと言われたりすると「おー、じゃあちょっと手伝ってやろうか?」って言う風になりますよね。

そういう構成の作り方でいくと、誰でもミリオンセラーを作ることができます(笑)。

※こちらの記事は連載形式です。続きは5/7(火)に掲載予定です。


■登壇者プロフィール

三木一馬(小説編集者・ストレートエッジ代表)
1977年生まれ。2000年、メディアワークス(現KADOKAWA)に入社。翌年、電撃文庫編集部に配属される。同編集部編集長を経て2016年、独立。作家のエージェントを担う株式会社ストレートエッジを立ち上げる。
担当作:川原礫『ソードアート・オンライン』、鎌池和馬『とある魔術の禁書目録』 など
Twitter:@km_straightedge

高橋裕介(小説編集者・新潮文庫nex編集長)
1985年生まれ。2008年、新潮社に入社。週刊新潮編集部を経て、2012年に新潮文庫編集部へ異動。2014年、「新潮文庫nex」を立ち上げる。2016年3月より新潮文庫nex編集長(文庫編集部兼務)。
担当作:伊坂幸太郎『ジャイロスコープ』、知念実希人『天久鷹央の推理カルテ』 など
Twitter:@TkhShy

森啓(事業プロデューサー・LINE執行役員)
1975年生まれ。2005年ライブドア入社。ポータルサイト、CGMコンテンツなど様々な事業に携わる。同社のNHN JAPANへの経営統合後、LINEのサービス企画を担当後、現職。チケット・ノベルのエンターテイメント事業を担当。