
2019年8月5日、LINEノベルよりLINE文庫・LINE文庫エッジの2レーベルが創刊します!
そこで、書籍を刊行されるLINEノベルオリジナル作家のみなさんへ特別にインタビュー企画を実施。今回はライトノベルレーベル"LINE文庫エッジ"から8月に刊行される『魔導ハッカー〉〉暴け、魔法の脆弱性を』を執筆された鎌池和馬さんへお話を伺いました。
——本日はよろしくお願いします。今回の『魔導ハッカー〉〉暴け、魔法の脆弱性を』の作品コンセプトは、どのように決まったのですか?
鎌池和馬(以下、鎌池):そうですね。まず、剣と魔法のファンタジーをやりたいなと思っていて。ただ、よそでは見られない世界を作りたかったので、もう一つ追加の要素が欲しいなと思ったんです。既に魔法がたくさん普及している世界で、そこから応用してできるものは何だろう? と考えた時に、「ハッカー」という言葉が美味しいかなと思ったことがきっかけで、そこから膨らませていきました。
——ファンタジーをベースにしながら、プラスアルファで「ハッカー」という言葉を加えたんですね。では、そんな本作で一番力を入れて描かれているポイントはどこですか?
鎌池:主人公がどれだけ自由に暴れられるかというところに重きを置いています。単純に正義のヒーローではないんですけれども、かといってずっと悪の道を突っ走っているわけでもない。正義の道から外れたまま、でも、「この状況に置かれたらこういうことをやりたいよね」という素朴な共感に繋げられないかなと。
——キャラクターはどのようにつくられていったのですか?
鎌池:主人公については、単純に善人だから人を助ける、というわけでもないアクが強めの設定にしました。その分ヒロインはスタンダードな方向にしようと最初に決めました。
ただ、直球だけでは味気ないので、何か裏が欲しいなと思って。いつも主人公の近くにいるんだけれども、実は主人公に言えないでっかい秘密を用意したというのが、パーティーの始まりなんですよ。
その関係ができた後に、最初に1章で助けるサブヒロインの女の子も魔族という『秘密』を設けました。せっかくのファンタジーですし。別け隔てなく自分の気に入った人物を助ける主人公にすることで、正義ではないんだけれども、共感を得られないかな? という形で進めていきました。
——そんな風にキャラクターを固めていくんですね! 「こういう設定でつくっていこう」というものを先に決められるのですか?
鎌池:ジャンルを決めるときに、その主人公が本筋から脱線してしまうと話が進まないわけじゃないですか。逆張りもありといえばありなんですけれども、それは意識してやるべきで。例えば、推理小説なのに論理的に考えることが出来ない主人公となってしまうと、物語を進めていくのがかなり難しくなってしまう。だから、ちゃんとレールに乗せるキャラクターにするか、あえて脱線させてトリッキーなハードルを設ける形で面白くするかは最初に決めておきます。後はそこから主人公の周りにどんな敵味方を割り振るか、派生させていく感じでしょうか。
——ストーリーの軸が先にあって、それにマッチするかどうかでキャラクターをつくるということでしょうか。
鎌池:そうですね。最初に1冊の物語を読んでもらう時に、熱血だったりスリルやホラーだったり……どんなテイストで楽しんでもらうかを決めた上で、それに合っている主人公はどんな感じかな? 周りの人物は? という風にキャラクターの設定を決めていきます。
例えば、強気な主人公なのにホラーな現象に遭って腰を抜かしてしまったら、ギャップがあって逆に怖いと思うんですよ。だから、ジャンルを決めた上で主人公を活かすパターンをいくつか作ってみて、物語にぶつけたときにどれが一番効くかな? と考えて、あえて逆にするパターンもあります。あえて、というのは順当を理解した上で、という事ですね。
——鎌池先生から「やってみたい」と思うジャンルはありますか?
鎌池:苦手なジャンルというのもちょこちょこあるんです。けど、これが得意だからといって意識して決めていくことはしないですね。ただ、自分のやり方だとどうしてもバトルに集約するので、ホラーにしても、ちょっと学園物のラブコメっぽいものにしても、最終的にはバトルでオチをつけてしまう癖みたいなのはありますね。
——では、一番得意なジャンルを挙げるとしたらバトルものですか?
鎌池:そうですね。バトルだと、敵を倒せばその1冊は終わるという大きすぎる武器があるので。終わり良ければ全て良しって、お話にいったん区切りを作るには一番なんですよね。
——少し話題を変えまして、小説を書き始めたきっかけは何ですか?
鎌池:本当に最初のきっかけになってしまうと、もうさすがに覚えていないのですが……。パソコンを手に入れたときに、その中にワープロのソフトがちゃんと入っていたのが大きかったかなと思います。試しに触れてみるには敷居が低かったので。
——それは何歳の頃ですか?
鎌池:高校を卒業したころか、その前後だったと思います。
——非常に筆が早いと伺うことがよくありますが、新作はどのように書き進めたのですか?
鎌池:普段の執筆では、プロットを書くシリーズと書かないシリーズがあります。今回の『魔導ハッカー〉〉暴け、魔法の脆弱性を』は書かないでいきなり原稿を出すタイプのものですね。
文庫1冊分、出来た状態でお渡ししました。
——どのくらいの期間で一つの作品を仕上げるのですか?
鎌池:あまり長い期間をかけて1つの作品を執筆していると、自分の中でどんなテイストの面白さを伝えたかったのかわからなくなってしまうことがあるので、短期集中で書き上げて一つの形にしたいなというのがあります。この鮮度みたいな感覚は、大体1カ月ぐらいが限界ですかね。
出来れば一つの作品に集中したほうが、感情を乗せやすいとは思います。場合によってはそれができない時もあるのですが……。
——多くのシリーズを執筆されていますもんね。普段、どのような生活の中で作品を書かれているのですか?
鎌池:24時間のサイクルが壊れてしまっていて。最初は昼間に書いていても、徐々に起きる時間が変わって夕方に書き始めたりとか深夜に移ったり、また一周して深夜に起きる形に戻ったり……というのをずっとぐるぐる回って繰り返しているような状況です。
——書き始めると止まらないのですか?
鎌池:眠気とお腹がすくのはどうにもならないので、この2つは大事だと思います。やっぱり間にご飯を挟むと眠たくなっちゃうときもありますし。
集中力というのは大事な要素だと思います。しかも自分では気づかない。完全に眠気に負けずとも、こういう時はとがっている部分がなくなったまま、何となく書き進めてしまうこともあるので、ここの持続は大事なのかなと思っています。
——数々のシリーズを執筆されていますが、アイデアは普段どんどん浮かんでくるのですか?
鎌池:そんなことはないですが、でも癖をつけています。とにかくどんなに小さなことでもメモをしておいて、後で使えるかどうかを判断するというやり方ですね。「いきなりボン!」と大きい塊のストーリーを思い浮かべるのはできないと思います。
——閃いた瞬間のメモをどんどんストックしていくのですね。
鎌池:最初に何に興味を持ったのかはその時々で問題ないとは思うのですが、それをちゃんと面白いオチのついているお話に結びつけるには、どうしても読んでみての納得も必要なはずです。ただ書いている行為が楽しいだけでは駄目なので。
その骨組みに対して肉をつけていく作業として、あらかじめストックしてあったアイデアの中から何が使えるんだろう? というのは機械的に集めていったものの中から、自分の好きなものをコーティングしていく……というメモがすごく役立ちます。基本的に転ばぬ先の杖というか、詰まったときのための対策です。
――どんなときにアイデアが閃くことが多いですか?
鎌池:関係ない作業をしているときが一番多いと思います。例えば外を歩いているときでも浮かんだりするので。
自分が普段は意識していないところで、例えば「信号機の下に何かでかい金属の箱があるけれども、あれは何だろう?」のような、よくわからない連想から始まっている気がします。「三日後までに3つのネタを考えなければならない。だから机の前から動かない」といった追い詰め方をすると絶対浮かばないので。
——普段目にしたものからどんどん連想が始まるんですね。
鎌池:そうですね、そうなっているんだと思います。「答えを考えよう」と思ってアイデアが浮かぶことはまずないので、視界のほとんど目に入っていないようなところから吸い上げているんだとは思うのですが、具体的にそれがどういうプロセスかは自分にも分からないです。分かっているのは何か刺激が必要だとは思うのですが。
——ビジュアルから入ってくることも多いのでしょうか?
鎌池:かもしれませんが、正確な答えはわからないので。疑問に対して自分で予測をしていると、何かがねじれてネタになっていくんだと思います。
例えば、信号機の下に物体があるとして、とりあえず金属の箱があるけど「信号機を制御するものなのか? それともアースみたいに何かの安全装置なのか?」など、自分ではわからないままに、これはきっとこういうものなんだろうと勝手に考えているんです。その時想像していることは、多分答えじゃないんですよ。答えじゃないんですけれども、自分の中では新しいアイデアとして成立しているわけです。こういう考えは未来の乗り物とかに応用できますよね。
——普段からアイデアをストックされているとのことですが、筆が進まないときはありますか?
鎌池:もちろんあります。ですが、それは自分の頭の中で完璧だと思っていたことが実際に形にしてみたらどうにもならなかった…というだけの話だと思うので、ちょっとでも詰まったらそこでその日の作業を止めることにしています。全体を見直さないとならないので。
——なるほど。元の設計図が破綻していたようなイメージですか?
鎌池:そうですね。例えば、走りながらしゃべるシーンがあったとして頭の中では成立しているんだけど、実際に動かしてみると「この距離でしゃべりながら走っていたら通り抜けちゃうよね」という感じでどうにもならなかった……ということはよくあるんですよ。
「ジャンプしながらしゃべるとか、無理だよね。」とか。
——同時には無理ですよね。
鎌池:そうなんですよ。バトルシーンだと結構ありがちなんですが。本当はパソコンで作業する前にメモを1枚用意しておいて、「今日はこのシーンまでやる」という要素を箇条書きで書いておいて、潰しながら書いていくというのが正しいスタイルだと思うんです。
——なるほど。メモをすることで、要素を取りこぼさないようにするんですね。
鎌池:そうですね。「設定が破綻しているから前のところまで戻ってやり直そう」……と考えるのをアドリブでずっとやっていると、いつまでも前の要素を直していってしまったり、そこを直したことでまた次のトラブルが見えてきたり……ということが起こったりするんです。それを考えると、アドリブで調整するよりは一旦作業を止めてみて、もう一度どこを直せばいいか全体を見直してから作業したほうがいいと思います。パソコンの前で悩んだときには、すでに大きい壁があってどうにもならないと思うんですよね。もちろんこれは、なまける言い訳にしてはならないのですが。
——仕切り直して翌日とかに構造を考えるようなイメージですか?
鎌池:考えてその問題がクリアできれば構わないんですけれども。正直なところどうやってアイデアが頭に浮かんでくるかは自分にもわからないので……。パソコンを切って一旦顔を洗ったらすぐにアイデアが浮かんでしまい、「うわーっ!パソコン切ったの無駄だったよ!」みたいなのも結構ありますし。
自覚的にスイッチで、切りかえられればいいんですけれども、何がきっかけでそれができるかはわからないので……。一瞬で解決しちゃうこともあれば、ずっと家の周りをジョギングしていても全く思い浮かばなかったりすることもありますし。
——そうなんですね。ずっとジョギングしていても浮かばないときは、どうやって決着をつけるのですか?
鎌池:長時間机にかじりついても仕方がないのでなるべく短時間でケリをつけるよう、悩みを客観的に見える形にします。結局、そこまでいくと頭の中にあるものを無理にでも引きずり出すしかないので、ルーズリーフを用意して、問題点を並べて、「このでかい問題点を解決できないのは何故なんだろう?」と絡まった糸をほどいていく。巨大な塊のように見えるハードルも、できるだけシンプルに箇条書きでまとめていくと、意外と根っこにある問題は簡単なものだった……ということがわかったりします。
——必須な要素を並べて、シンプルな骨組みで考えるというイメージですかね。
鎌池:そうですね。ここなら取り出せるという要素を全部羅列して、できるだけ抜いていくとクリアすることも結構あります。
——書きながらだとなかなか難しいですよね、シンプルに考えるというのが。
鎌池:その一点だけなら抜き差しして情報整理もできるんですが、さかのぼった設定に影響を及ぼしたりすることが後から分かったりするので、アドリブで問題解決は怖いですね。
——なるほど。たまに振り返り、検証しながら作品をつくっていくというイメージですね。
——作品を書かれるときに大事にしていることはありますか?
鎌池:なるべく読み手と書き手という区別はつけないやり方がベストかなと思います。自分も読者さんの側にいて、「例えばこんなのはどうだろう」という形で同じ読者さんの大きい輪の中で受け入れてもらって一緒に笑っているのがベストなので。
もちろん作品を成功させるにあたってはマーケティングも必要だと思います。けれど、そちらに集中し過ぎると、でき上がりは美しいと思うのですが、どこか整い過ぎているというか少し壁を感じてしまうようなものになるんじゃないかなと。
だから、特に最初に「出来ましたよ」と言って編集さんに原稿を上げるまでは、マーケティングとかはあまり考えないです。それはもう骨組みではなく肉付けの段階なので、市場の動向みたいなものはプロの編集さんに任せています。
打ち合わせを重ねる中で徐々にコーティングして、「今、アクが強過ぎるからちょっと寄せていきましょう」みたいな感じで整えていく形にしたいので、最初の段階では出来るだけむき出しというか、一読者の目でもって楽しいと思える、濃度の高いものをつくっていきたいなと考えています。
——デビュー以降で、作品に変化はありますか?
鎌池:デビューした最初の頃は、主人公一人の視点しかなかったのですが、徐々に巻数を重ねてシリーズが長くなっていくにつれて、視点が複数になっていくことは結構ありました。単純にキャラクターが増えたということもあったのかもしれないですけれど。
——LINEノベルに何か期待することはありますか?
鎌池:新しいフィールドに行ったからには新しいことをやりたいなという大きな前提があって、せっかく『魔導ハッカー〉〉暴け、魔法の脆弱性を』ではわかりきった正義のヒーローではない主人公を出しているので、可能ならこれまで自分が鎌池和馬として書いていった像とは違うものをLINEノベルで出せたらなとは思います。
——最後に、これから作品を書こうとしている皆さんに一言アドバイスをお願いします。
鎌池:LINEで発表するという意味では自分も同じスタートラインに立っていると思っています。カクヨムなど他でもやってはいるのですが、LINEの空気はLINEの空気でどういうものになるかというのを、皆さんと一緒に楽しんでいけたらなと思います。
内容紹介