
2019年8月5日、LINEノベルよりLINE文庫・LINE文庫エッジの2レーベルが創刊します!
そこで、書籍を刊行されるLINEノベルオリジナル作家のみなさんへ特別にインタビュー企画を実施。今回はライト文芸レーベル"LINE文庫"から8月に刊行される『ゆびきりげんまん』を執筆された堀内公太郎さんへお話を伺いました。
――作品を書くときはどんな部分から決めていきますか?
最近は人物から固めていくことが多いですね。主要なキャラクターについて細かく履歴書をつくって、エピソードを肉づけしていきます。人物を固めながら同時に頭の中でストーリーを考えて、ある程度の形になってきたら、そこではじめてプロットとして起こします。手間と時間がかかる面倒くさいやり方です。ほかの人はもっと効率のいいやり方をしていると思いますよ。
――プロットを固めていくのは大変ですか?
一番つらい作業ですね。アイディアを出すのがしんどいこともありますが、それ以上にプロットは「進んでいる」という実感が持ちにくいからです。執筆のときは進んでいる実感を持ちやすいので、プロットに比べたら精神衛生上ずいぶんと気が楽です。
――筆が進まないときはありますか?
「ありません」は言い過ぎですが、ほとんどないと言っていいと思います。それでも進まないなと感じたときは、「書くこと」で解決しています。無理やりでもがりがり書くようにしています。
――プロットで固めた時点で方向が見えているから、書く時にスムーズなのでしょうか?
それもあると思います。「じゃあ次になにを書こう」とはなりません。プロットから外れることもありますが、それでも筆が止まることはほとんどないと思います。
筆が進まないときは調子うんぬんより、もっと単純な原因があると考えています。たとえばあるシーンがどうしてもうまく書けない場合、少し時間を戻した場面から書いてみたり、逆に少し進めた場面から書いてみたりすると、驚くほどあっさりいくことがあります。ほかにも視点人物を変えたり、登場人物を整理したりするだけでスムーズにいくことは少なくありません。筆が止まる原因は、その場面に最適な書き方をしていない場合がほとんどだと思っています。
また書きながらいまいちだなと思った場合でも、立ち止まらず無理やり進めることがあります。そういうときはとにかく書いて書いて書いて、原稿用紙10枚書いて上澄みが1枚残ればいいやくらいの気持ちでやっています。実際にあとでごっそり消すことも多いです。
――それは一通り書いてから書き直すようなイメージでしょうか?
そうですね。最近はちょっぴり成長したので(笑)そこまでひどくはありませんが、以前は最初に書いた文章がほとんど残っていないことも少なくありませんでした。
――書くのが嫌だなと思うことはありますか?
プロット作りは苦しいです。でも書く方ではほとんどありません。ただ事前に用意したプロットから外れることが分かっていながら書き進めていくときはドキドキします。ちゃんと書き切れるのか、綱渡りをしているような気分です。
――プロットから外れるときはどういうときですか?
プロットを作っているときより実際に書いているときのほうが、当然ストーリーに入り込んでいます。つまり登場人物の心情もより理解することができます。すると「こいつはこういう行動しないよな」とか、「この子はきっとこういうこと言うよね」というのが、プロットのときよりよく分かるんです。そういった部分でプロットと齟齬が出てきた場合、強引に登場人物の「性格」を変えることはできません。結果、プロットから外れることを選択します。でもそれが本来のストーリーだと思うので、プロットから外れることを躊躇はしません。
――書きながら状況やキャラクターへの理解がより深まっていくんですか?
そうですね。逆に辻褄あわせでプロットをつくっていたところが、実際に本文を書いているとスムーズに繋がっていくこともあります。「やっぱりそうだったんだ」と自分で感心することも多いです。実際に書かないと見えないこともあるんだと思います。
――作品を書かれるときに、これだけは大事にしていることはなんですか?
登場人物には、悪役だろうが犯人だろうが最低限の愛情を持つようにしています。そのせいか、完全な悪人として描いたほうが分かりやすい人物でも、ついつい人間らしいシーンを入れたがる傾向があるみたいです。そのせいで、ときおり編集さんに注意されます(笑)。
同じようなことですが、物語と直接関係がない無駄な部分を大切にしたいと思っています。あってもなくても物語が成り立つエピソードとか、思わせぶりなだけの登場人物とか好きなんですよね。書いても消すように指示を受けることが多いですけど。
――普段はどういう生活スタイルで書かれているんですか?
平日は別の仕事をしているので、小説にかけられる時間は朝1時間ほどしかありません。4時過ぎに起きて、家のことをして、軽く走って、身支度して、子供を保育園に送って、出勤して……と慌ただしい中でなんとか時間を見つけて書いています。あとは週末や休みの日です。ただ最近はまとまった時間がとれないので、土日あわせて4時間できたらいいほうかもしれません。
――時間が限られているから集中できるのでしょうか?
それはあると思います。パソコンの前に着くときは、「さて」と考える時間も惜しいので、書く文章を思い浮かべてから座るようにしています。座ったと同時に書き始めるためです。これだと15分しか時間が取れないときでも、意外と書けたりします。執筆が細切れになることも多いので、プロットはできるだけしっかり作るようにしています。
――書き続けるモチベーションは何ですか?
まずは単純に「表現したい」という気持ちです。誰かを楽しませたいとか、驚かせたいとか。もちろん個人としての承認欲求もあります。ただ一番は、妻に「おもしろい」と言ってもらいたいからです。最初の読者である妻に褒めてもらいたい。それが最大のモチベーションです。
――奥さまに最初に読んでもらったとき、どんな反応が多いんですか?
めちゃくちゃ厳しいです。それこそ、どんな担当さんや校正さんよりも怖いです。指摘もいちいち耳が痛い内容ばかりですし。シビアですよ。
――誰かの感想を求めるのって緊張しますよね。読者の方の感想は気にされますか?
悪い感想は薄目でやり過ごし、良い感想しか見ないようにしています。プロの作家は自分1人で書いているわけではなく、完成までに色々な方が関わったうえで、本という1つの形になっています。だから本になった時点で、ある程度は納得していいんだろうという考えです。だから作品に対する悪い意見を目にしても、「そういうこともあるよね」と最近やっと思えるようになりました。
――以前はそうではなかったんですか?
デビュー直後は、必要以上に否定的な意見が気になりました。結構それでダメージも受けましたよ。あれ、不思議なことに悪い感想ばかりが目につくんですよね。それでつらかった時期もあります。今でもエゴサーチはします。でも悪い感想を見かけたら、「あらま、言われちゃってる」と思えるくらいには図太くなりました。
――今回の『ゆびきりげんまん』を書こうと思ったきっかけは何ですか?
原案ができたのはけっこう前です。デビュー直後に、一度作品として仕上げたことがあります。でもそのときは出版社から、「違うものを書いてほしい」と言われて結局お蔵入りにしました。ただいつかどこかで書きたいと思っていたので、今回こうして世に出せることを大変嬉しく思います。
――長年あたためてこられた作品なんですね。作品のお話はどこから思いついたんですか?
小指って切られたらめちゃくちゃ痛そうじゃないですか。それを文章で想像させたら、読んでいるほうはきっとぞくぞくするだろうなあと。ひどい執筆動機ですね。あと高校時代に、通学時の電車内で生徒の制服が切られる事件が連続してあったんです。犯人は捕まらなかったんですが、それが記憶の片隅に残っていて、そのときの気持ち悪さもこの作品を生むきっかけになりました。
――デビューをしようと決めたタイミングはいつですか?
特に投稿先も決めず、デビュー作の元となる作品をぼちぼちと書いていたときです。小説を書きながら、初めて「楽しい」と感じたんですよね。これはきっとおもしろい作品になると。この作品をぜひ世に出したいと思いました。結局、その作品が宝島社さん主催のこのミス大賞の最終候補に残って、数年後にデビューが決まりました。
――最初の作品はいつごろ書かれたんですか?
執筆を始めたのは、20代半ばだったと思います。数年間書かない時期もあったので、デビューまではトータルで10年ちょっと書いていたと思います。当初は小説のジャンルもよく分かっていませんでしたが、今から振り返るとミステリーではなく一般小説に当たるような作品です。
――これからチャレンジしていきたいことはありますか?
いわゆる探偵役が出てくるシリーズ物を書きたいと思っています。来年中には第一作を出せたらいいですね。
――LINEノベルに要望はありますか?
最近の出版業界は暗い話が多いので、いい意味で話題になってくれると嬉しいです。いろんな出版社が参加するという今までにない仕組みが、どういう相乗効果を発揮するのか楽しみです。ドラフト制(※)も透明性があって画期的だと思います。作家の収入面にスポットを当てているところもいいですよね。優秀な人材を集めるという意味で収入は重要なポイントです。業界を変えるんだという本気度を感じます。
(※4月24日イベントレポ 参照)
――収入を得られる環境が良い作品につながったりしますよね
作家がお金の話をするのはタブーのように言われることも多いですが、僕はそう思いません。収入はモチベーションになります。Youtuberを目指す人たちが増えたのも、人気Youtuberの夢のある収入が影響しているのは間違いありません。今回の新たなビジネスモデルが小説家を目指す人が増えるきっかけになるといいですね。
――これから作家を目指す方にアドバイスはありますか?
書き始めたら最後まで書く。「このネタおもしろい!」と勢いで書き始めるのは簡単です。でもそうやって書き始めた作品を「終わらせること」は簡単ではありません。だからといっていつも途中でやめていては、先には進めません。どんな作品であろうと完結させる。「了」の数だけ小説はうまくなる――僕はそう信じています。
内容紹介
著者:堀内公太郎