失恋したてブログ用


2019年8月23日にLINEノベルより刊行された『♯失恋したて』。
今回、刊行記念として本作を執筆された中村航さんへインタビューを実施しました。

『♯失恋したて』は"回復"をテーマにした物語。

 

――作品の着想はどこからきましたか?

何年も前から「失恋したての女の子」というモチーフで何かやりたいなって思ってたんです。小説の中で『幸福じゃないし!』って叫んでるシーンは、最初から思い浮かべていました。

――彼氏にもフラれて、就活もお祈りメールがくるし、読んでて「堪えるな......。」という感じでした。どんなことを考えてキャラクターを作っていったのでしょうか?

今回、物語を通して"回復"を描いていこうと考えてました。なので、主人公が落ち込むところからスタートさせたかった。だから、彼女は最初から失恋する運命にあったんです(笑)。
あとは、就職活動って21歳かそこらの時に人生の中で大きな選択をする場だなと思っていて、そういうことも入れ込みたかった。例えば、女性が総合職にするか一般職にするかみたいなこととか。

なので主人公には非常に申し訳ないんですけど(笑)、失恋と就職活動という2つの落ち込む出来事を用意しました。

――就活の部分などすごくリアルだな、と感じました。中村さんは講師をされているそうですが、普段の学生さんとのやりとりなど参考にしましたか?

そうですね。学生とのやりとりのなかで就活大変そうだなっていうのが伝わってきます。別に取材してるつもりはないんですけど、生きてることが取材みたいなところが多分どこかであって、自分のどこかで「次、何書こうか?」ということをいつも考えてます。なので思い返してみると誰かが言ってたことが、自分の書く上での参考になってたりはしますね。
 

――就活って大変ですよね......。 

今の大学生は、僕らの頃よりも1、2年早く大人になる感じがしますね。大人の像も違うかもしれない。
就活って、人によってやり方も結論も全然違うと思うんです。ただ、就活時期って「素のままではいけない。」とか、逆に「素のままやろう。」とかどこかで折り合いつけて変化していくんじゃないかなと思うんです。

スッと上手くいく子もいるし、上手くいかない子は最後は「どうしてなんだろう?何が悪いんだ?」みたいなことを考えて、どんどん追い詰められていく。下手すると1年ぐらい就活してる人もいるし、最後まで決まらないケースもある。

今回の「♯失恋したて」で書いたのは就活の一面ですが、就活してる人やこれからする人、かつて就活をしてた人たちが読んでどう思うか気になります。なにか感じてくれたらいいなとは思います。


――就活も恋愛も上手くいかないと自分を否定された気持ちになりますよね。 

社会にも彼にも必要とされてないって、思っちゃいますよね。この小説では、旅をして、変化が訪れて、最後は就職活動で前向きになっていくという大きな構造を、最初から考えてました。

だから、最初は落ち込んでもらおうと、幸福駅でのシーンは、だいぶひどいですけど、......書きながら思い付いたというか、ここでもう一回ひどいことが起きるようにしよう、とか思い付いて書いたんです。

普段作品を書く時、今回みたいに、意地悪な偶然、みたいなことを思い付いたり、考えたりしたことはなくて......書いたときにはひどいって思いましたね、自分のことを(笑)。

――リアリティーがありました。嫌なことがあるときって、重なったりするんで。この作品を読んだ皆さんが、どんな感想を抱くのかなって気になりますね。 

あと、作品の中に失恋エピソードが出てくるんですけど、アンケートをとって集まったエピソードを参考にしてるんです。なので、実はどこかで実際に起こった話が作品の中に入っています。

物語を書く上で、実際の失恋エピソードを参考にしました。


――
誰かの実体験が元になっているんですか? 

そうですね。
最初は実際のエピソードを元にした失恋したての女の子を主人公にしたショートストーリーみたいな物語を考えてたんですね。
どうしてかというと、女性でも男性でも失恋した話って一人一個は持ってそうだなと思ってたんです。それを聞くのが、自分の中ですごく流行っていた時があって、一時期、人に会うと聞いたりしてました。いつか、失恋をテーマに物語を書こうと思ってたから。

聞いてみると、やっぱり一つぐらいは面白い話があるんですよ。大恋愛して別れた、などのインパクトの大きい話もあるんですけど、片想いが多いですよね。失恋って言っても告白したら駄目だったとか、結局告白せずに終わったとか色々あるわけで。

作中にも「誰だって失恋の一つや二つは、したことがあるから。かつてはみんな、失恋したてだったんだよ。」という言葉が出てくるんですけど、そうなんじゃないかと思うんですよね。


――なるほど。本作で力を入れたポイントは?

旅をして回復していく話にしたかったので、ロードムービー的な部分がありますね。作中に出てくる場所は、実際に観に行きました。徐々に回復していく感じを出せるように、意識しながら文章を書いていきました。あとは、本当に一緒に旅をするっていうような感じで書いたというか……。主人公たちと一緒に旅をしながら、寄り添って書く感じです。
最初に主人公にひどいことしちゃったから「元気出して。」という想いを込めて物語を作ったところもあるかもしれないです。

知りたい気持ちが物語を書く原動力


――物語で描かれる主人公の心情がすごく共感できるな、と感じました。

付き合ってた彼氏が嫌な感じで、普段、あまり嫌なキャラクターを書かないんですけど、今回は嫌なやつにしなきゃと思って書きました。「お前はいつもそうだよね。」とか「もっと自信持ったほうがいいよ。」とか、謎の上から目線で言う人いますよね。自分勝手な人自体は、全然分かるし想像つくんです。

ただ何だろう……、僕は「嫌なやつだけど好き。」っていうのが、正直、分かんなかったんです。嫌だけど付き合い続けている、ってのはわかる。もう好きじゃないけど、我慢して付き合ってる、とか。そういうことならわかるんです。
でも、例えば、誰かが彼氏のことを「むかつく。こういうところが嫌いだけど、でも好き。」みたいなことを言っていたとして、そういうのがわからないんです。なんで好きなんですか、って思っちゃう。嫌いにならないのが、理解できない。

 

――女性はいる気がしますね。相手にすぐ怒っちゃうけど好き、みたいな。

それを好きだという女の子が分からなくて、分からないから書いてみようって思うんですよね。知ってることを書くっていうより、知りたいことを書くことが多いんです。今回なら、「この主人公はなんでこの男と付き合ってて、好きなんだろう。」とか。

――知りたくて書く......頭の中で想像してく感じなんでしょうか。

そうですね。手がかりが全くないと、もちろん書けないんですけど、段々と分かってくるんですよね。ある時点で「そうか。」と腑に落ちるようになって。そうなると最後まで書けるようになる。
書いてくうちに、こういう出会い方してこんな接し方をされたら、どんどん自分を抑えていって、こうなるかもな、って段々分かった気がしますね。

――どんな感じで理解されていったのでしょうか。

まず、大学生で、就職する前の年齢だとこういう状態になりやすいかもしれないなと思いました。就職すると世界も広がるし、変わってくると思うんですけど。
逆に高校生のうちは、クラスが社会の縮図だから、まだ第三者的な客観性が持てたりすると思うんですね。
大学生って、人付き合いしなければ付き合わずに済むところもあるし、自由なところがある。自分を相対化することなく、学生時期を過ごすことが出来る。

 

――狭い世界で関係性が完結しちゃう感じでしょうか?

はい。例えばの話、大学生カップルが、極端に外と関わり持たなくなっちゃうことは、あるだろうと思う。彼氏の家で寝て、時々大学に行って、授業受けて、また戻ってくるみたいなことしてたら、一年や二年は、あっという間に過ぎていくわけじゃないですか。しかも楽しいな、って思っているうちに。
逆もありますよ。大学生って、広い世界に行くことも、狭い世界に行くこともできて、それは実は、どちらも大切なことのような気がします。

 

――『#失恋したて』を待たれてる皆さまに、一言お願いしても?

『#失恋したて』は、小旅行するような感じで、爽やかに読める作品になってるんじゃないかなと思います。長さも読みやすくなってるかなと。たくさんハッシュタグが、書いてありますけど、何か一つ二つ、気になった方は、ぜひ手にとってみてほしいです。
誰もがかつては失恋したてだったんです。これはみんなの物語なので、ぜひ読んでみてください!


書籍情報

内容紹介
「彼女が失恋したばかりだって僕にはすぐわかったんだ──」
失恋したての就活生・なつきと、小学生ユーチューバー・遥希の、ちょっと不思議な夏休み。
女子大生のなつきは就活がうまくいかず、大学の先輩で社会人の恋人・亮平とも予定が合わずに会えない日々が続いていた。
亮平の長い出張に合わせた北海道旅行で、二ヶ月ぶりに会うことになったふたり。
しかし、亮平と待ち合わせした幸福駅でなつきを待っていのは、全然、幸福じゃない出来事だった──。

出版社からのコメント
どこからも、誰からも必要とされない…そんな痛みを味わったことありますか?
本作は、就職活動真っ只中の女子大生なつきが主人公。
3年付き合った恋人からも就職活動先の企業からことごとくフラれる……
そんなどん底のタイミングで起こった出来事から物語は展開していきます。
著者である中村航さんは2002年『リレキショ』で文藝賞を受賞してデビュー。
2年後の2004年には『ぐるぐるまわるすべり台』で野間文芸新人賞を受賞、また映画化もされた『100回泣くこと』が85万部のベストセラーとなり、人気作を多数輩出されています。 主な著書に『デビクロくんの恋と魔法』『トリガール! 』『BanG Dream! バンドリ』などがあります。
チクチク刺さるエピソード、また予想を裏切る物語展開をお楽しみください。

著者について
中村 航
2002年「リレキショ」で文藝賞を受賞しデビュー。
2004年『ぐるぐるまわるすべり台』で野間文芸新人賞を受賞。
『100回泣くこと』が85万部のベストセラーとなり映画化。主な著書に『デビクロくんの恋と魔法』『トリガール! 』『BanG Dream! バンドリ』ほか多数。

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