
LINEノベルのライトノベル新レーベル『LINE文庫エッジ』より2019年9月5日に刊行される『CHiLD ―境界からの降臨者―』。
今回、刊行記念として本作の著者であり、LINEノベルの編集者でもある箕崎准さんを直撃。作品の見どころやライトノベルを書くようになったきっかけ、またLINEノベルに期待することなどをお聞きしました。
――LINEノベルに向けて『CHiLD ―境界からの降臨者―』を書いていただきましたが、どのようなテーマで書こうと思いましたか?
擬似家族ものを描いてみたいなというのが最初にあって、そこから考えていったら子育てものにたどり着いたんです。ネタとして子育てが面白そうだなというのと、最初に『ちゃいるどろっぷ』という、ギャグみたいな仮タイトルを思い付いちゃいまして。『少女、拾った。』的な意味合いですね(笑)。そこから広げていった感じです。
――長年温めてきたものだったんでしょうか?
LINEノベルで書くと決めたときに考えました。ただ、疑似家族ものをやりたいなというのはさっきも言った通り前からありまして。あとはこの作品の担当がGA文庫で書いていた『ハンドレッド』と同じなので、「同じバトルものにしようか」みたいな。あとはそうですね……LINEノベルでみんな流行の異世界ファンタジーを書きそうだと思ったので、あえて現代ファンタジーで勝負してみようと思い、今の形に落ち着きました。結局そんなことはなかったんですけど(笑)。
――どのようにキャラクターを作られていきましたか?
僕は世界観、ストーリー優先でキャラを作っちゃうところがあるので、こういうキャラにしようとかっていうのは、最初はあんまり考えていないんです。とりあえず今回はアプリでも軽く読めるようにと、みんな嫌味がないキャラにしようというのはありました。
あと細かく言えば、ルリは保護したくなるようなかわいらしさを出していく感じで、しゃべり方とかも結構こだわりましたね。鈴華は、凛々しさとか気高さみたいなのを出そうかなと。総司に関しては、普通の少年っぽさを出しつつ、カッコいいところはカッコよく書こうかなっていうぐらいですかね。こういうキャラにしようみたいなテンプレ的なものも今回あまり考えてなかったです。
――かぼちゃさんのイラストが出来上がってきた時の印象を教えてください。
キャラクターの印象をとてもよくつかんでくださっていて素晴らしいなと。また、かなり早い段階で先にイラストがあったので、それをテキストというか、小説に反映していけたのでとてもありがたかったです。このシーンはかわいらしく書こうとか、カッコよく書こうみたいなところは、かぼちゃさんの絵が頭の中で動いたところもあるので、本当にすごく助かりました。
――本作の読みどころというか、書いていて一番力が入ったポイントなどをお願いします。
どこですかね。家族の日常描写と中二病バトル的な場面のメリハリでしょうか。日常と非日常のギャップみたいなものは出そうかなと思っていました。いわゆる安心できる家族というか、家庭みたいなものとバトルを対比させ、うまいところに落とせればいいかな、みたいな感じです。それで読み応えがあるようになればいいなと思いつつ書きました。
――箕崎さんの執筆についてお伺いできればと思います。最初に小説家になろうと思ったきっかけは何でしたか?
まだインターネットが一般に普及する以前から、パソコン通信をやっていたんですよ。そこにいる人たちって変わった職業の人ばかりだったんです。ゲームクリエイターや漫画家の人とかもたくさんいて。そういう人たちと知り合って、良いことから悪いことまで教えてもらって、ものづくりってこんな感じなんだな、こういう世界もあるんだなと知ったんです。そして自分でもやってみようとなって。最初はゲームプログラマを目指しました。中学生から高校生くらいの時ですね。それでゲームを作り始めたんです。
――ご自身でゲームを作っていたんですね。
はい。結果的に二十歳になる頃には、ゲームプログラミングのバイトなんかもやっていて。
で、ある時、ゲームのシナリオを書く人が足りなくて「おまえが書かないか」的な流れになったんですよ。もともと小説はたくさん読んでいて、時間がある時に自分のホームページに短編小説を書いたりしていて。それでシナリオを書くことになって、気付いたら「作家をやらないか」みたいに編集さんに声をかけられて、今に至ります。
――もともとはどんなものを書かれていたんですか?
どちらかというと、ライト文芸に近いものではありました。普通の恋愛小説みたいなやつとか、ちょっとファンタジーが入ったものとか、色々と。読んでいた小説もライトノベルではなく、今でいうライト文芸に近いものも多くて。
村山由佳さんとか好きでしたね。村上春樹さんも好きだったり、三島由紀夫も好んで全部読んだりしていました。というか、とりあえず古本屋で1冊100円とか200円の本を買いあさって、年間200~300冊ぐらいはなんでも読んでいたんですよ。通学時間が長かったのもあって。それからミステリーやSFにも傾倒して、その流れで『ブギーポップ』シリーズをネットの友達に紹介してもらって、ラノベに入った感じです。剣や魔法といったいわゆるファンタジーは苦手だったのであまり読んでいなかったのですが、ゲームシナリオを書く上での勉強素材として、ライトノベルを読み始めた感じでしたね。
――ライトノベルに触れたのはゲームのシナリオを書くのがきっかけだったんですね。
そうですね。その後、ゲームをつくる製作過程やノベライズのお仕事で、榊 一郎先生や水野 良先生の仕事の仕方を見る機会もあって、一緒に仕事をしていく中でライトノベルやゲームの世界観の作り方とか書き方を覚えていきました。
――普段はどのようなところで作品を書かれていますか?
朝と夕方に喫茶店で書いています。基本的に家ではゲームの仕事や編集の仕事をやって、執筆は喫茶店とわけているんですよ。今日は3時間書くと決めたら、喫茶店に行って3時間書くとか。
だらだらやっても結局Twitterとかソシャゲをやったりしちゃうので、大体1日にやる仕事量を決めています。締め切り前に一気にやるとかいうのはないんですよ。コンスタントに毎日何ページとか、大体同じ分量ぐらいの仕事はやっていくみたいな感じにしています。
――とてもお忙しそうなので、ちゃんと寝ているのかなと思ったりします。
昔、締め切り前に40時間、寝ずに集中してやれば終わるので頑張ろうみたいな感じでたくさん仕事を入れて一気にやっていた時があって、結果的にそれを何度かやったところで倒れて入院しちゃったんです。
まだ22、23歳の時で「まだいける、まだいける」って感じでやっていたら無理だったんで、これ以上の歳になったらもっと無理になるだろうと。それからですね。無理しないと決めて仕事量を調整し、1日1日、コンスタントにやるようになりました。
朝に原稿を書いて、昼に2、3時間寝て、夕方また喫茶店で書き、そのままジムに行って運動して、それから編集の仕事やゲームの仕事をやったりとか。そして眠くなったら寝るという流れですね。毎晩ジムに1、2時間行くとかにすると、ある程度のローテーションというか、決まりごとみたいなのができてくるので、それでギリギリ人間としての生活を保ってるみたいな感じです。それでも締め切りに追われちゃうと、結局深夜にファミレスにこもったり、家で朝まで仕事したりすることもありますが。
――やる気が出ない時はどうしていますか?
やる気がどうしても出ない時は、友達と飲みにいきます。そうしているうちに、仕事しなきゃいけないなって気分になるんです。あとは他の作家さんの作品を読みます。そうしていると、みんな仕事してるな、しなきゃいけないなって思うんです。
アニメでもゲームでも漫画でも同じで、他の人がクリエイティブなことをしているのを見ていると、自分もクリエイティブなことをしないとなって思えてくるんですよ。性質みたいなものですかね。
他人の目とかを気にしないで、自分が面白いと思うものを書いてほしい。それが多様性を生む
――LINEノベルに期待することってありますか?
今、出版業界に漂っている閉塞感みたいなものを打ち破ることができたらいいなと思っています。
LINEノベルで現れた新人作家からヒット作家が出たりすると、業界も盛り上がっていいんじゃないでしょうか(笑)。
あとは作品の多様性ですかね。打倒『なろう』じゃないですが、ある程度の多様性があるようなサイトになってほしいと思っています。ランキング上位を上からひっぱって出版していくだけじゃなくて、多くの出版社の優秀な編集さんがいるのだから、いろんな形で作品にアプローチして、拾い上げて、ヒット作が生み出される場になればいいなと。
――投稿するユーザーのみなさまに一言お願いします。
個人的には、他人の目とか他の投稿作を気にしないで、自分が面白いと思うものを書いてほしいなと思っています。そういうものにこそ熱量がこもると思っていますし、多様性に繋がると思うので。僕もそういう作品が読みたいです。
できればこれからLINEノベルで書く人には、あまり周囲の目を気にせずに、「俺はこれを書きたいんだ」とか「私はこれが好きなんだ」っていうものを書いてほしいです。縛られたものの中で、いわゆる大喜利みたいにするのは、もういいかなって。こんなことを言ったら怒られるかもしれないけど、ライトノベルの専門学校とかあるじゃないですか。ああいうところにいくと、「何を書いたら受賞できますか」って聞かれるんですよね。あれが本当に嫌で。
――ウケるものを書きにいこうとする感じですよね。
みんなこれでいいんだって安心して書けるような、答えを知りたいんですよね。ただ、それをそのまま出されても、僕としてはつまらないなと思っちゃうんです。売れるもの、ウケるものを狙いに行くのが悪いというわけではないんですけれど、そればかりだったら面白くないですし。とはいえ、流行に逆らっても仕方ないところもありますし、その中で自分が好きなものや、自分が面白いと思うものをちゃんと見せられている作品ならば最高ですよね。
――箕崎さんが面白いなって思うのは、自分の好きを追求してる作品なんでしょうか。
そうですね。僕には絶対に書けないなっていうものを読みたいし、作品を読んでその人がどんな人かなって興味がもてるものが読みたいです。
作品を読んでこの人に会ってみたいな、仕事したいなって思える作品が好きなので。
売れるか売れないかの部分って、編集がある程度どうにかできる部分でもあると思うんですよ。でも、その作品の軸みたいなところは、その人にしか書けないものがないと面白くないなって思っちゃうんです。その作家のポテンシャルっていうんですかね。僕はそれを感じる作品を見せてほしいし、読んでみたいです。
内容紹介