
LINEノベルオリジナル作家のみなさんへインタビューする本企画。
今回はライト文芸レーベル"LINE文庫"より9月に刊行された『出雲の阿国は銀盤に舞う』を執筆されたつるみ犬丸さんに、作品の裏話や、作品で題材になっている「アイスダンス」の魅力、今後LINEノベルに期待することを伺いました。
――今回の作品『出雲の阿国は銀盤に舞う』のコンセプトはどのように決まったのでしょうか。
担当編集者さんから、「デビュー作のような作品を読みたい」というオーダーがありました。僕は『駅伝激走宇宙人 その名は山中鹿介!』(メディアワークス文庫)という作品でデビューしたのですが、商業的にはあまり成功しませんでした。『出雲の阿国は銀盤に舞う』は、『駅伝激走宇宙人 その名は山中鹿介!』のリベンジ戦という側面があります。
――『駅伝激走宇宙人 その名は山中鹿介!』は、戦国武将(山中鹿介)の正体が実は宇宙人で、現代日本に再びやってきて駅伝をする異色作でした。宇宙人の戦国武将をフックに使いつつ、駅伝というスポーツの魅力や、それに取り組む選手の心情を掘り下げる作品でしたね。
僕は別名義(りょくち真太)で、歴史上の人物があの世で野球をする『戦国ベースボール』(集英社みらい文庫)という作品を書いています。その関係もあり、歴史上の人物を使ったネタのストックがいくつかあったんですね。その中の一人に、出雲の阿国もいたんです。
――その中から出雲の阿国を選んだ理由は?
戦国時代に生き、ダンスで身を立てたという点に惹かれました。あと、はっきりとした事績が解明されておらず、ミステリアスな存在だという点にも魅力を感じました。
――本作は、現代に猫の姿で転生した阿国が、フィギュアスケーターの少年少女(主人公とヒロイン)を導いていくストーリーになっています。阿国とフィギュアスケートを組み合わせるというアイデアは、どこから出てきたのでしょう?
最初から「阿国を出すなら、組み合わせる題材は歌とダンスだろう」と思っていました。
そこでもう一捻り必要だろうと考え、その結果として出てきたのがフィギュアスケートという題材でした。プロットを作っていたのが、ちょうど平昌オリンピックを控えた時期だったというのも、一つの要因ではありますね。
――ところで、本作の阿国は猫の姿になっていますが、なぜそうしたのでしょう? 可愛いからですか?
可愛いからです(笑)。
ちなみに、阿国をオッドアイにしたのには理由があります。ある言い伝えによれば、左右の目の色が違う猫は、片方の目で現世を見て、もう片方の目はあの世を見ているのだそうです。
本作の阿国は、あの世に持ち越した未練を、現世に生まれ変わって晴らすという設定になっています。オッドアイの猫にまつわる言い伝えを、そこにリンクさせたわけです。
――フィギュアスケート競技の中から、アイスダンスという種目を選んだ理由を聞かせてください。そもそも、「フィギュアスケートは知っているが、アイスダンスとはなんぞや?」という読者さんも多いと思うので、そのあたりの説明もお願いします。
分かりました。まず、「フィギュアスケート」というのは、スケートリンクの上で、音楽に合わせて滑る競技の総称です。フィギュアスケートには三つの競技があり、「シングルスケーティング(シングル)」、「ペアスケーティング(ペア)」、「アイスダンス」と呼ばれています。
シングルは一人で滑る競技です。近年は、羽生結弦選手をはじめ日本人選手の活躍が著しく、みなさんも競技内容はよくご存じだと思います。対して、ペアとアイスダンスは、男女のカップルで滑る競技です。
――ペアとアイスダンスの違いは、どこにあるのですか?
簡単に違いを説明しますと、ペアはアクロバティックな技が認められている競技。アイスダンスは、アクロバティックな技を使わない、優雅な動きがメインの競技です。
たとえば、ペアの代表的な技術に、相方を空中に投げる「スロージャンプ」がありますが、アイアスダンスではジャンプの類いはすべてNG。
また、ペア、アイスダンスともに「リフト」という相方を持ち上げる技があるのですが、アイスダンスでは持ち上げる高さに規定があり、肩から上のリフトは禁止されています。
――なるほど。かなり乱暴に言うと、「ペアの魅力=ダイナミック」、「アイスダンスの魅力=エレガンス」ということですね。なぜ、シングルやペアではなく、アイスダンスを選択したのですか?
最初は、シングル、ペア、アイスダンスの全競技を検討しました。その上で、「男女二人のカップルで滑る」という点、そして「派手な技術力よりも、表現力に重点が置かれる」という点に着目しました。主人公とヒロインの関係性を描く上で、一番適しているのがアイスダンスだと思ったんですね。
――作品執筆時に、大事にしていることはありますか?
資料集めと取材ですね。原稿を書いているうちに、「この描写や説明は正しいのだろうか」と気になってくるんですよね。そういった不安点や疑問点は、資料や取材で潰すようにしています。
――本作執筆時も、よく取材に行かれていたそうですね。
群馬県に全日本ジュニアの大会を観戦しに行ったりしましたね。群馬取材のときはたいへんでした。大会が終わって帰ろうとすると、会場の周囲が真っ暗なんです!まだ夜8時くらいだったのですが、まるで深夜のような暗さで。会場に向かうとき、最寄り駅周辺にはお店も栄えている雰囲気だったのですが、駅から遠ざかると街灯が全然ないんですよ。
――出雲大社にも、何度か足を運ばれていたそうですね。
阿国の墓は全国にいくつかあって、どれが本物かは分からないのですが、出雲大社にあるものは有名ですね。写真もたくさん撮りました。
日本語で読めるアイスダンスの資料があまりなく、ルールの解釈に不安があったんですよね。また、執筆中にアイスダンスのルールが変わったこともあり、「これで正しいのか?」と不安の連続でした。そんな中で、本文監修を村元哉中( ※1)さんにお願いできたのは幸運でした。
(※1:フィギュアスケート選手。2015年全日本選手権優勝。2018年平昌オリンピック日本代表。日本を代表するアイスダンサーの一人である。)
そうですね。作品を深く読み込んでいただいた上に、こちらの質問にも丁寧に答えてくださいました。
アイスダンスの新規ルールは英語資料で発表されるので、本当に自分の理解が正しいのか判断できなかったんですよね。また、採点規準や選手心理などの細かい部分は、実際に競技をやっている人でないと分からない部分です。村元さんには、そのあたりが大きく的外れになっていないかご確認いただきました。斯界の第一人者である村元さんのご意見を伺えたのは、とても心強かったですね。感謝してもしきれません。
資料を調べていくと、アイスダンスのルールや採点基準、年代ごとのトレンドがどう変遷していったかが分かるのですが、それを知るのは楽しかったですね。ちなみに本作では当初、阿国がアイスダンスの歴史を解説する場面が入る予定だったのですが、長い上に本筋とは関係ないので削りました。
皮革業を題材にした『ハイカラ工房来客簿』シリーズですね。皮革業の取材よりも、舞台となる大正時代の時代風俗を調べるのが大変でした。
もちろん、それも大きな見どころではありますが、ほかの部分にも注目していただきたいですね。本作以前にも、フィギュアスケートを題材とした作品はたくさんあります。いずれも優れた作品ですが、本作では歴史上の人物である阿国を物語に組み込むことで、新しい切り口を用意できたと思います。
――ほかにも、猫になってしまった阿国のユーモラスな行動や、主人公とヒロインの成長。恋心の変遷など、多種多様な魅力を持つ作品になっていると思います。
幅広い方々に楽しんでいただける作品になった、と自負しています!
――これから作家として挑戦していきたいことはありますか?
いろんなことに挑戦したいですね。僕はメディアワークス文庫でデビューしてライト文芸を書き、次に児童文庫。いまは絵本も描いています。次はやるとすればなんでしょうかね……。とりあえず、ゲームのシナリオはやってみたいですね。あと、もともと宮本輝さんの作品が好きで、純文学志望だったので、そちら方面にもいずれ挑戦したいと思っています。
――今後のLINEノベルに期待することはありますか?
一言で言えば、「メジャーなプラットフォームになってほしい」ですね。多くの人が集まり、多くの作品があり、多くの人に作品が読まれる場所になってほしいです。世の中には優れた作品はたくさんありますが、たとえ優れた作品であっても、顧みられず、忘れ去られていくケースはよくありますよね。そういうことが、なるべく少なくなれば良いなと思っています。
――『出雲の阿国は銀盤に舞う』を楽しみにされている皆様に、一言お願いします。
頑張って書いているので、よろしくお願いします。量で言えば、デビュー作と同じくらいありますね。当初の想定より長くなりましたが、良いものが書けたと思います。
内容紹介