
LINEノベルオリジナル作家のみなさんへインタビューをする本企画。
今回はライトノベルレーベル"LINE文庫エッジ"より10月に刊行される『女賢者の明智光秀だが、女勇者の信長がパーティーにいて気まずい』を執筆された森田季節さんへお話を伺いました。
――今回の作品『女賢者の明智光秀だが、女勇者の信長がパーティーにいて気まずい』のコンセプトはどのように決まったのでしょうか?
元々戦国時代というか中世が好きなので、その時代の最新の研究結果をまとめた新書や選書には大体目を通していたんです。その中から、本能寺の変の研究動向を扱った本を読んだ時に「明智光秀の視点で描いたら、コメディになるんじゃないか」と思いついたのがきっかけです。
――登場人物のキャラクター設定をどのように決めていかれたのか教えてください。
明智光秀に織田信長……登場するのは歴史上の人物なので、キャラクター自体は半分くらい出来上がっているんですよね。なので“俗説”“通説”“最新の研究成果”を適宜に取捨選択して、設定に矛盾がないように意識して作り上げていきました。
――実在した人物をモチーフとした作品ならではの設定方法ですよね。特に思い入れのあるキャラクターとその理由をお聞かせください。
作中ではあまり活躍していないのですが……足利義昭ですね。俗説や通説によると、どうしても“冴えない人”というイメージが強いんですけど、そういう人ほど応援したくなってしまうんです。
あとは、研究結果というのはそれまでの通説に異議を唱えるといいますか、物申す部分もあるので、足利義昭の活躍がしっかりと書かれている書籍も出てくるんです。そういった本を読んだ影響も大きいですね。

――なるほど。歴史資料にかなり目を通されているんですね。戦国時代という過去が舞台なので、なかなか難しい質問になりますが、作品を書く上で取材などはされたのでしょうか?
もちろん戦国時代には行ませんが、キャラクターのモチーフとなった人物が居城していた街には足を運んでいます。ただ取材で行ったというよりも、元から寺社やお城を巡るのが好きなので、ここ数年のうちに既に訪問していた場所がほとんどです。
特に滋賀県には戦国時代のメジャーなスポットが密集しているので、隣の福井県で地獄の接客業をしていた当時はよく観光へ出掛けていました。
ちょっと話が逸れますけど、接客業に就いていた当時は実に様々なお客様の対応に追われていて……。本気で足がガタガタ震えた出来事もありますし、文字通り泣かされたこともあります。そういう苦労の日々を過ごしていたこともあって、滋賀県へはよく逃げるように遊びに行っていました。
――かなり過酷な経験をなさっていたのですね……。そんな辛い時期があったからこそ生まれた作品なのでしょうか。では、そんな本作の読みどころをお聞かせください!
ギクシャクした関係性のキャラクターが、同じパーティーを組んだことによって起きる悲喜こもごもを書いている作品なので、特別ひとつの読みどころというものはないのですが、読みながら「自分にもこういうことろがあるな」「会社や学校で嫌な人と同じ空間にいるとこうなるよね」と、共感しつつ楽しんでいただけたら嬉しいです。

――森田さんが最初に小説を書き始めたきっかけはなんですか?
高校生の頃に清水義範先生の短編集を読んでいて、よくノワールなショートショートを書いていました。所属していた卓球部の人たちに読んでもらったり、一緒にリレー小説を書いたこともありました。僕が通っていた高校では、サッカー部や陸上部よりも、卓球部や柔道部、剣道部の方がオタクが多かったんですよ。そういう人たちからよくラノベを借りていましたね。
ただ、当時の経験はあくまで“書き始めたきっかけ”なので、ほぼデビューには結びついていません。デビューに繋がったきっかけは、大学に入ってから一気に本を読むようになって、そこから同人ゲームのシナリオを書き始めたことですね。同人ゲームでは、ライトノベル換算で3冊半くらいのテキスト量が必要になるんです。だからライトノベルの新人賞用に原稿を書く時にすごく役立つ経験でした。フルマラソン完走経験があれば、10キロくらいなら余裕で走れますから。それと同じです。
――影響を受けた作家さんはいますか?
海猫沢めろん先生と佐藤友哉先生、それから桜庭一樹先生です。
――では、これまでの執筆活動の中で苦労したことや嬉しかったことを教えてください。
長いこと本が売れなかったのは本当に、本当に辛かったですね……。
ただ売れないまま5、6年作家をやっていると、もはやそれが当たり前になってくるので、やはり何事も慣れだなと思います。体や心を酷使することに慣れ続けると命に関わる危険性がありますが、売れない現実に慣れたところで生きていけますから……。もちろん「売り上げが3冊です!」なんて事態に陥ると仕事が来ないので作家生命の危機にはなりますけど、幸いギリギリ続けられる程度にはやってこられました。
逆に嬉しかったのは重版がかかった時です。「人間として認めてもらえた」という感覚が半端じゃなかったですね。
ライトノベルのデビュー作で、イラストレーターの文倉十先生にキャラクターデザインのイラストを担当していただいた時の喜びも忘れられません。自分の小説にイラストがつくだけでなく、有名なイラストレーターさんが担当して下さるという事実に、ありがたい気持ちでいっぱいでした。
当時、ネット小説投稿サイトはあまり知られていませんでしたし、いきなりWEBに長編小説をアップしても、どれだけの人が読んでくれるのか見当もつきませんでした。知り合いでも読んでくれる人は3人程度。それがデビュー後には、日本中の書店に自分の本が並んで、多くの人に読んでもらえるようになったわけです。一気に地平が開けたと思いました。
正直、あの時に覚えた感謝の気持ちを常に忘れず生きていたら、もっとたくさん友だちもいただろうし、彼女もいただろうな、と思います。
――今や大活躍の森田さんですが、普段の執筆活動についてお伺いしたいです。普段はどのよう時間帯やシチュエーションで作品を書かれているのでしょうか?
昼と夜に2時間半ずつくらい書いています
――やはり筆が進まないこともあるのでしょうか?そういう時の打開策も教えてください。
あくまでも個人の意見ですが、筆が異様に進まない時って大抵“作者本人がつまらないと感じている時”だと思うんです。そういう場合は大体客観的に見てもつまらないと思うので、中断して話の展開を変えることもありますし、プロットが通って書き出している場合はすぐに編集さんに連絡して「すごくつまらない展開になるかもしれない」と直談判します。
プロの作家の場合、つまらないと思いつつも締め切りが迫っていたらなんとか書き続けなければならないこともありますが、趣味で書いているならいくらでも修正可能です。当初の予定とは違う展開に進めたり、思い切って話自体をボツにするのもアリだと思っています。
ただ、長編小説を完成させた経験のない人が覚える不安は、単純に経験値の少なさが原因の可能性が高いので、まずはコツコツ書いて完成させることが大切だと思いますよ。
「自分はプロになるんだ!」と言いつつも、一度も長編を完成せずに断念してしまう人は無数にいます。それはきっと、完成させるまでの間にやってくる“停滞期”が原因なのだと思うんですけど、まずはそこを乗り越える経験を経ない限りは、プロへの道は開けないですよね。
――これからどんなことにチャレンジしていきたいですか?
すでに経験したことをやっても驚きや楽しみは少なくなってしまうと思うので、自分が経験したことがないジャンルに挑戦してみたいです。マンガ原作やアニメの脚本、あとソシャゲの世界観を作るコンセプトアートなどに携わっている作家さんは羨ましいですね。
――LINEノベルに期待されていることを教えてください!
どのライトノベルレーベルでもそうですが、そのレーベルの新人賞作家からヒット作が出ないと軌道に乗るのは難しいと思うんです。LINEノベルの場合は小説投稿サイトとしての側面もありますから、そちらで人気作が生まれるというルートもあるのでしょうが…。
レーベル立ち上げの時に呼ばれる既存の作家というのは、いわゆる傭兵のようなものです。もちろん最初からまっさらな新人作家だけで出発することはできないので、傭兵がいないことにはレーベルを維持すること自体が難しいのですが、いつまでも傭兵に頼り続けなければ機能しない都市国家ってちょっと危ういじゃないですか。だからこそ、早く新人賞作家が育ってレーベルを盛り立てていく形になればいいなと思いますね。
――それでは最後に、これから投稿するユーザーのみなさまへアドバイスをお願いします!
毎年夏には芸大の講師をやっているのですが、その時生徒へ話すために、自分が大学時代どれくらいの本を読んだのか計算してみたんです。マンガを除いても、1000冊強は読んでいました。
僕の場合は高校時代の読書体験が皆無に近かったのですが、それでも大学に入ってから1000冊読んだことで、なんだかんだ10年以上は文章でごはんを食べることができていますから。1000冊という数字は、目安としてもちょうどいいのかなと思っています。
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